五の章  さくら
 (お侍 extra)
 

    東 風 〜またあした

       七の章



 春本番との浮かれ気分も最高潮の長閑な吉日。春告げの桜花を愛でつつ、街の安泰を広く周辺へと知ろしめす、恒例の“花祭り”を催すこととなっている今日この日だというに。その虹雅渓の中層部に位置する 警邏本部へは、朝も早よから物騒な知らせばかりが刻々と届いており。素浪人らが浮足立っての暴れているだの、彼らが集っていた廃屋が崩落しただの、街中での破壊行動をまで知らせる大騒ぎは、だが。場末の寂れた一角やら、一般の住人の近寄らないような、古さもあってのどこか危険そうな廃屋だとか、そんな特殊な場に限られてもいたがため。街全体を覆っている、晴れ晴れとした祭りの空気には一向に抵触しておらず。どんな惨事が起きているものか、間近にいなければ無かったも同然というのを地でゆくが如しという有り様で。そんなざわめきの、しかも まだまだ兆しの段階の騒ぎの報告を聞いた、警邏隊本部長が放った指令は たったの一言。

 「大門を閉じろ。」
 「…………はい?」

 言われた隊士らが思わず顔を見合わせたのは、その主旨が判らなかったから。まるで今日のこの日の混乱を前以て判っていたかのような采配、あちこちの詰め所へ重々用心せよとの念を押し、精鋭たちを堅固な城塞の継ぎ目でもある大門の傍らへと集め…と。まるで合戦でも構えているかのような準備をしておいでな隊長だとは思っていたものの、

 「隊長、それは…。」
 「ですが、今日は。」

 「判っておる。」

 隊士や衛士らの言いたいことは重々承知。今日という日は、この街のにぎわい、すなわち揺らがぬ安泰ぶりを象徴しもする祭りの日だ。昨年の秋口に起きた、本丸戦艦“都”の撃沈と、それへと搭乗していての行幸の途中だった新・天主と共に殉職した、大アキンドらの大量死という大事件ののち。各地で勃発し、世界を大きく揺るがした謀反や混乱の数々を、だがこの街だけは見せなんだ。結局のところ、不満分子が起こした暴動に過ぎないそれらが鎮火するにつれ、一縷も揺るがなかったこの都市に、人々の関心が集まったのは言うまでもなく。何の、これから何か起きるのかも知れぬなんて皮肉る声も無いではない中、不動の安寧を広くあまねく示すところの当の対象、外地からの客人も多いのに。選りにも選ってそれを締め出そうというのかと、そうと聞きたかったらしい若いのたちへ、

 「耳門まで閉じての堰止めよとまでは言うておらぬわ。
  それに、四方大門の内、東の大門に限っての話なのだから、
  威厳とやらへの陰なぞ落ちはせぬ。」

 「あ………はいっ。」

 付け足された一喝の冴えに、あらためて背条を延ばした部下たちへ、

 「単なる旅人や商人ならば、
  馬車や荷車を曳いておろうと耳門で十分通過は可能なはず。
  異様なほどに大人数だの大荷物だの、
  理由は言えぬが先を急いでいるだのいう連中ほど、
  慎重に調べよとは昨日からも伝えてある。」

 確かにこの街は、先年よりあちこちの都市部で勃発しているという不穏な動乱の気配を微塵も感じさせぬ不動の安泰ぶりを保ってはいる。そしてそれを広く知らしめることで、なおの信頼を得、荒廃しきった他の都市に先んじての発展と地位を固めようというのが、次は我こそが差配の地位にと虎視眈々狙っておいでの組主らの真の魂胆でもあるようだけれど。各地で芽吹いたそれらが富裕層への反発が根にある反乱である以上、そんなことを掲げる街は、そのまま反乱分子らの格好の標的にもなりやすいのも明白で。よって、警備を任された我らとしては、

 「薄っぺらな余裕を示したい上つ方の見栄なぞどうでもよいわ。
  確実な守護を貫徹するため、
  しいては、それもまたこの街の難攻不落を誇示すこととし、
  入り口の関所にあたる大門の死守は、どうあっても成し遂げるぞ。」

 「はいっ!」

 「怪我人や急病人が出たという“至急”へは、
  既に特別な医療班も送り出しておる。
  詰め所に一室設けて、現場にてそれへ対処させよ。」

 「はっ!」

 「よしか? どんな例外も看過してはならぬ。
  どんな権勢をひけらかそうと、今日ばかりは皆同じ扱いでよい。
  判ったなっ。」

 漆黒の切れ長の眸が放った眼光が、針を含んで鋭く冴える。それを真っ向から浴びてしまった隊士らは、

 「ははは、はいっ!」

 復唱もそこそこに本部長室から飛び出すと、各方面の各位へ伝達にと馳せ参じており。部屋に居残った隊長殿もまた、机の前、隊長席の椅子へ戻ることはなく、窓から望める朝の外界を何とはなく見やっている。中層部の込み合った町中にある本部なだけに、そこから何かが見えるというのではなし、彼もまた何かを凝視している訳ではない。尻に火がついたように飛び出していった部下らだが、東だけで良いのですかと問い返されはしなかったこと、今頃になって気がついて。微妙に安堵めいた苦笑を、その口許へ浮かべている兵庫だったりもし。

 “まま、訊かれたら訊かれたで、
  間者の草を放なっておいたからとかどうとか、
  適当に言い繕うつもりじゃああったが。”

 この街の安泰を示すのが大門の有り様でもあることは、あの綾摩呂が統治していた頃よりの象徴的なそれであり。当初は外敵への守りのみならず、中からも誰も逃さぬようという意味をも持つ厳重な戸締まりを誇示する存在だったものが。今はその逆、ああまで大きな口を開いていても問題ないほど、警邏も行き届いた安全な街だと示す代物。よって、周縁からくる馴染みの農夫や商人へは、衛士の一瞥だけという認可でもって通過が許されていたほどの緩みようだったが、今日ばかりはそれもならじと。様々な“特別”について、秘密裏に伝令を行き渡らせてもおり。そちらへも、表向きには“馬鹿騒ぎと騒乱の境目が判らぬような、精力の余った連中が躍り込んで来ては収拾がつかぬ”なぞと、婉曲な言い回しに押さえてはいたけれど。それこそ察しの良い部下はたんとおり、言の葉にはせなんだ思惑も読み取ったろう面々が、水をも洩らさじという守備を固めていることだろう。

 『ただ単に人別の関所という働きだけでなく、
  防砂の役目もあってのあれほどの大門と聞いておるが。』

 過日のこと、それもまた電信によってながら、

 『冬場に吹きすさぶ砂漠の大嵐の余燼が、
  すっかりと暖かくなった春の陽の下であれ、
  吹き荒れることがあるのを御存知か。』

 兵庫を相手に、そのような いかにも婉曲な言い回しをした男がいる。そして、

 『午前中にも砂漠で大嵐が起こるぞ。東の大門の方向だ。』

 矢文だけでは足りぬとでも思うたか、たった今、電信により届けられたのはそんな短い一言で。名乗りもしなけりゃあ、こちらからの応対も待たずに唐突に切れた通信だったが、低められるとより一層、得も言われぬ深みの出る あの声は、そうそう聞き間違えるはずもない因縁深い相手のそれであり。

 「…島田勘兵衛。」

 一番最初に久蔵からの ささめゆきの文が届けられた あれ以降。何かしら打って出そうなという予測はあったが、特に細かい打ち合わせなんてしちゃあいない。近日中にこの里を出て行くそのついで、もしかしたらば埃が立つよな騒動になるやも知れぬが。我らは発つ身、よって遠慮は要らぬ、埃を入れぬようにとの処断、例えば大門を閉ざすことくらい、そちらへお任せしてもよろしいか?と。あの壮年軍師が言って来たのは、突き詰めればそんな程度の文言で。追ってのこととて、どの大門へ気をつけてほしいか、日時はいつ頃かという情報もこまごまと届きはしたが、その他の殆どが…さっき挙げたような世間話もどきの物言いばかりであり。具体策を刷り合わせることはとうとう無いままだったので。こちらへの信頼があったかそれとも、協力が無いならないで、彼らのみにての出来る範囲、それでもかなりの征伐をし果たしてから、それではさようならと発ってゆくつもりだったのか。

 “どっちにしても、片腹痛い段取りだがな。”

 そう簡単に負けはせぬだろ警邏隊へ、ますますの自信がつくよな“実習の場”をやろうと思うてなとでも言いたいか。差配不在という微妙な動揺や不安定さが、部隊の片隅やあちこちに無くも無かったこちらの心情、あっさりと見透かされたようでムッとしたものの。あんな輩どもへ協力するなんて矜持が許さぬと思う心のその片やでは、突発的な挙兵といえど、たかの知れている頭数の起こす挙動にすぎぬというに。それへの合いの手さえ合わせられぬよな“無能”とされるのもまた中っ腹だったし。それより何より、そんな自分たちと浪人たちとを衝突させて、そのどさくさに逃げるというよな、あまりに無責任な策ではないのが正直言ってありがたい。砂漠の彼方、虹雅渓の圏内ではないところへ、野伏せり崩れという機巧躯の手ごわい手勢を分断しておき、そっちを何とかしてもらえるならば、街の内部にはさしたる因子も残らぬだろうし、生身の体のこちらの手勢だけで十分に押さえ込めるというもので。

 “無事に発ってくれれば いっそ重畳。”

 勿論、勘兵衛への案じや、彼の壮年と共に発つのだろ、腐れ縁の友への親心なんかじゃあない。ほれ見よ、街の内部への連動を押さえた、俺らの協力なくしては そうそうすんなりとは運ばなんだだろうがと。今度再会したときに、あのタヌキ面へ悪態の一つもついてやれる、と。自身の中での切り替え、いわゆる“踏ん切り”をつけての、さて。

 「…………よし。」

 自身もまた現場へ向かわんとのこと。手慣れた所作にて愛用の軍刀を腰へ据え、まだまだ冴えての鮮烈な気配も濃い朝の空気の中、つややかな髪と上着の裾とをくるりと舞わすと。軍靴の踵をこつこつりと堅く鳴らして戸口のほうへ、誰もいない室内から喧噪渦巻く戸外へ向けて、真っ直ぐ歩み出した隊長殿であった。





       ◇◇◇



 思えば、実質の黒幕だった新しい天主こと右京や、それへぶら下がって利益を独占していた大アキンドらが一掃された今。これからの復興に必要なのは、堅実な商人たちとこの街が潜在的に持っている自治能力に他ならぬ。上水や電気の配給といった様々な公益事業体系が、公的な代物なればこそ公平で、よって便利且つ合理的な代物と、ちゃんと分かっておいでの住人らにしてみれば。アキンドが芯となって生活を回す、この街の有り様を忌々しいと恨んでいただろ浪人たちの構える蜂起なぞ、ただ単に暴徒らが前体制の遺産を粉砕して回る狼藉にしか見えないだろうから。なるたけ裏路地での騒動に押さえるつもりじゃあるけれど、騒ぎが表立つほどの規模に膨れ上がったとしても、住人たちがどちらを嫌悪し、どちらの味方に付くかは明白。

 『すっかりと準備万端整えてから動き出したいとする相手を、
  それと判っていながら、わざわざ待ってやる義理もなかろうよ。』

 今日本日という日の浪人どもと野伏せりどもの動きとしては、恐らく ただの顔合わせだろうと見越しておりながら。だのに、街中での騒乱起こさせたは、兵庫殿が読んだそのまま、この日、彼らが自主的に手勢を分断してまでも“繋ぎ”を取るのだろうその隙をつき、一気に畳み掛けることで居残りの不平浪士らを少しでも減らすため。内部との連絡が取れなくなっては、同志が合併しての大蜂起どころじゃなくなろう。

 『互いに心の底からの信頼を培いあっているかは、
  はなはだ疑問な集まりだろうからの。』

 いくら何でも目立つだろう巨躯のままでは、街への潜入も適わぬとあっての段取り、街の外でという待ち合いを設けた野伏せりとの合流地点へと向かったところの、とりまとめ役だった頭目格とも連絡も取れぬまま…となったれば。もしやして一緒に召し捕られたのではないかいなとの疑心が、彼らの心持ちへと襲い掛かるのにさほどの刻はかからぬはずで。そうともなれば、どれほどの頭数がいようと、統率が取れぬまま烏合の衆に戻るだけだろし。隊長格だった顔触れの鼓舞に乗っかっただけという手合いほど、あっさりと士気も引っ込めての下層へもぐり直すのが関の山。もしやして多少は鼻の利く手合いが居残りにいて、何のそれなら先に内部で混乱を起こせと張り切ったとて、統率の充実では今現在の警邏隊に敵おうはずもなく。この窮地を招いたのもまた、あの…先日襲撃した料亭の用心棒だった壮年侍の企みではと、そこまで看過出来るクチがいたとして。八つ当たりや最後の抵抗にと、またぞろ“蛍屋”を襲うような不心得者が来たとしたっても。そんなくらいは織り込み済みで恐れるに足らず。先日と今日とで、向こうの人員もずんと打ち減らされているだろ その上に、

 “不意打ちでもないのに遅れを取ってちゃあ、
  白夜叉の先鋒、金の狛、
  鬼の副官との異名を取った、
  朱槍の七郎次の名が廃
(すた)るってもんで。”

 癒しの里ほどの最下層に、今更火の粉を降らしても何の陽動にもならぬと思うのだけれど。そこまで頭が回るような相手ばかりなら苦労はしない。上層をこそ重要とされるがゆえに、こっちの警邏は手薄ともなろうけど。何かあってからでは遅いからとの、それこそ周到な用心から、太夫との供寝が出来るような あいまい宿などへ、気心知れた旦那衆の伝手からの見張りを回してあったところが。痩せ浪人には見合わぬ高額の酒代を奮発し、何日も粘る客がいるとの知らせがすぐにも集まって来ていた手際のよさよ。

 『よろしいか、そういう輩はいっそ、
  腰が砕けるほど酒を飲ませて潰してしまやいい。』

 連中の本拠や外と直結している上層から遠いことをせいぜい利用し、文の受け渡しもことごとく封鎖して、コトが動き出してることにさえ気づかせねば、所詮は取るに足らない手勢に過ぎぬ。何日かの居続けなんなら、警戒も薄くなって緩んでいようから、祭りに事寄せて“飲み比べしましょvv”とでも誘えば、造作もなく引っ掛かるに違いない。酔い潰して正体がなくなったなら、そのまま番所へ放り込んどきゃあいいさと、楼閣の旦那や女将へそうと助言をして回った七郎次が続いて向かったは。癒しの里を上の層から分断する、昇降機のすぐ前に位置する大門前だ。砂漠から街を守るのにと構えられたそれにはずんと劣るが、それでも こちらもまた人の出入りを制限するための関所ではあって。周辺をぐるりと、あの式杜人の洞窟から続く地下水系による、結構な濠に囲まれた遊里のその玄関。自分はそこの手前で立ちはだかって、上からなだれ込むやんちゃを弾き飛ばす所存でおいで。あくまでも用心棒としてであれ、元は侍という“浪人”が幅を聞かせているとの評判は、店にとってあんまり喜ばしい風評にはならぬ。なので、里全体の護り役、こうして大門の守りに立つのなら、どの店という特定の楯じゃなし、余計な詮索は撒かれまい。

 “それに…。”

 いわゆる“スジもの”ではないけれど、女性が看板の里なれば、非力な彼女らを守るため、義理や仁義に厚い、頼もしいあにさんも多数おいでのその方々を相手にし。今日のこの日、もしかして埃の立つよな騒ぎが起きたら、どうか力を貸してくんなんせと頭を下げて回った彼へ、

 『何をまた水臭いことを仰せか』と。

 先日来からの旦那衆らの動き…波風立たせぬようにとのことだろう、遠回しに手を配っていらっしゃるの、歯痒い想いで見ておった。我らにもどうぞ助力をさせて下さらぬかと、丁重に引き受けていただけたので、門の内側はどんな窮鼠が暴れても安心との余裕もて、

 「………どうしたね、
  そこにおいでのご浪人さん。
  この里は陽の高いうちは準備中だよ。」

 その言に違うことなくの、まだまだ明るい朝ぼらけな中にあって。白々と晒された白壁に黒い姿がいや映える、結構な威容を滲ます大門という衝立(ついたて)を。しゃんと張ったその背へ負うようにして立っている美丈夫が一人という構図。時折 風に乱されては、モザイク画のような色彩をその表へと撒き散らかしてる、深色の水路に掛けられた石橋の上。その色彩の幾つかを担う、金の髪に白い肌、青玻璃の双眸という美丈夫が。均整のとれた長身へ、女物だろ藤色の羽織を小粋に着こなし、とおせんぼよろしく すっくと立ちはだかると、

 「………。」

 気配を嗅ぎ当てられたこと、しらを切るほどには図太くなくてか。不承不承認めたことを示しての、姿を現したのがぞろぞろと…二十人でこぼこというところ。此処だけではなくの、他の角度の濠へも忍び寄りの張りついているのやも知れぬとしても、

 “この頭数と及び腰ではね。”

 七郎次の細い眉尻が、片方だけわずかほど跳ね上がる。素人相手の狼藉を企む徒党なら、しかも太刀を得物とする浪人ばかり…とその額面だけを見るならば、決して少ないとは言えないかも知れない陣容だろうが。切羽詰まっているのがありあり判る物腰は、あの大戦の折にも幾度か見覚えのある代物。命の使いようを誤って、死に急ぎに走らんとしていた敵の部隊の面々が、破れかぶれになる一歩手前で見せた逼迫感とほぼ同じだったから。火事場の馬鹿力での一点突破が叶ったとしても、その後はただただ失速し、自滅するのがオチだろて。自身を侍と言いつつも、人であることさえ放棄したくなったあの戦さ、実際に体験してはなかろうにと思うにつけ。一点突破も危ないもんだとの見越しをつけると、

 「飲みに来た訳じゃあ無さそうだが、
  粋な遊びにってんならば大歓迎。
  アタシら幇間もこぞってお付き合いいたしやすが。」

 返事も待たず、自慢の槍をぶんと振り、その先より三つの刃を引き出しての、朱色の塗りも鮮やかな、よくよく撓う長柄を体の前へと差し渡すと、

 「ただ暴れに来たってだけの野暮天ならば、悪いが通す訳には行かないねぇ。」

 なめらかな文言に寄り添わした得物、隙なく構える凛々しさよ。ただの通りすがりじゃあない、しかもそれなり、腕に覚えの男衆だとみてだろう。やっとのこと、押っ取り刀で身構える面々へ、

 「妓楼に潜入させてたお仲間も、
  今頃は酔い潰されての使いものにはならないはずだ。
  さあ、あんたらも悪あがきは止して、ここで観念致しませいっ。」

 妙に凄んだその声に、どこやらの辻から駆け出しかけてた子犬が、思わず怯えて柳の根方へ引っ込んだほど。それほどまでの静かな闘気が垂れ込めつつあった、そんな下層の一景だったそうな。


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